チョコレート業界の2015年の新しい取り組みは、カカオ豆にワインで用いられるブドウのような名声を与えることを目的としています。
Why Does Your Chocolate Taste So Bad? - Newsweek
高級市場を見渡すと、「零細自家製」「小ロット」「フェアトレード」等の標語とともに、ハイエンドのチョコレートを見つけることができます。 洗練されたパッケージと商品イメージがあるでしょう。 しかし、それらは、ほとんど偽ものです。
消費者は、多くの場合、高価で繊細なチョコレートとスーパーに並んでいるチョコレートの違いがわかりません。
チョコレートメーカーには、この2つを区別することはできないと信じている人々もいます。
業界のリーダーたちが貴重カカオ保全イニシアチブ(Heirloom Cacao Preservation, HCP)を立ち上げた理由です。
これは、高級チョコレート協会(Fine Chocolate Industry Association)と農業の研究部門である米国農務省(USDA)、および成長著しいチョコレート職人の協力と努力によって生まれた組織です。
このプログラムでは、業界で最も洗練された味覚を用いて、風味豊かな世界のカカオを遺伝子分析、識別、できれば保存することに挑戦しています。
貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)の目的は、品質の高いカカオを調達しやすくするとともに、現在、市場で主流を占める収穫量は高くても平板な味の品種とは異なる、風味豊かなカカオ栽培を奨励することです。
C-スポット(C-spot)の創設者、マーク·クリスチャン氏は述べています。
「チョコレート業界は、基礎を見失いました。味も含めて」
クリスチャン氏は、ショコラティエと情熱的チョコレート愛好家のため、この貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)に関与しています。
「ほとんどの人は、良いチョコレートを知りません」
2011年に設立された貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)は、これまでのところ、ベリーズ、コスタリカ、ハワイ、ボリビア、エクアドルの産地で、世界の7つの貴重なカカオを指定しています。
試飲判定員は、ギタードチョコレート(Guittard Chocolate)、シャーフェンバーガー(Scharffen Berger)とヴァローナ(Valrhona)の幹部を含め、チョコレート業界で著名な人物で構成されています。
彼らは、それぞれのカカオの歴史的、文化的、植物学的、地理的特性を確認します。 しかし、最も重要なのは、遺伝的プロファイリングで、革新的なアプローチを追加しています。
「我々は、チョコレートに、次世代の波を起こそうととしています」
と、クリスチャン氏は述べています。
「チョコレートには、データに裏付けされるべき側面がまだまだあります」
実際、リンツ(Lindt)、ハーシー(Hershey's)やマース(Mars)のようなチョコレート大企業は、長い間遺伝学に関心がありましたが、一貫して高い収量や、干ばつ、病気被害の抵抗性のあるカカオ豆を栽培する道具としてでした。
そして、米国農務省の農業研究部門(USDA’s Agricultural Research Service)、トリニダードのココア研究センター(Cocoa Research Center)とトゥリアルバ、コスタリカの国際カカオ熱帯農業研究と高等教育センター(International Cocoa Collection of the Tropical Agricultural Research and Higher Education Center)、 などが、カカオ遺伝学の一般的なデータを分析し、分類一覧を作成するための継続的なプログラムを実施しています。
しかし、貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)の努力は、これらのプロジェクトとは、完全に異なるもので、量より質に重点を置いています。
これは、味の側面から遺伝学を用いたチョコレート業界初の体系的な取り組みです。
歴史的に、チョコレート業界は、高いカカオ豆収穫率でカカオの木を選別し、カカオ農家はそれを母樹として挿し木を行い、カカオの木がクローン化をして栽培してきました。 例えば、高収量のカカオ豆、より病気に強いカカオ木は、より効果的に業界の要求にこたえることができるため、もてはやされ、より積極的に栽培されてきたのです。
収穫量が高く、育ちが早い最も人気のある2品種は、エクアドルのCC-N51と西アフリカのカカオメルセデスです。 2品種ともに、接ぎ木されてから、わずか18ヶ月で実を結ぶことができます。
しかし、この2品種のカカオは、カカオバターやカカオマスの大量生産には適していますが、味に関しては、一般的に低品質です。 スニッカーズを作るためには十分ですが、カカオのみで高品質の手作りチョコレートを作るには全く適していません。
クリオロ、フォラステロ、トリニタリオ。 最近まで、農学者はテオブロマカカオは、この3種類の種のみである主張していました。
しかし、2008年に、米国農務省の国立クローン遺伝熱帯農学者で、マースの合弁会社株式会社(M&Ms, Twix, Milky Way、その他)でカカオ遺伝学の主席科学者、フアン·カルロス·モタメイヤー(Juan Carlos Motamayor)は、先進的な科学雑誌のプロスワン(PLOS One)で研究を発表しました。
彼のチームは、3つの品種のサンプルで遺伝子解析を行いました。 DNAパターンを比較した結果、10のカカオ遺伝子型を発見しました。
農業の持続可能な多年生作物研究の研究室代表者、リンデル・マインハルト(Lyndel Meinhardt)氏は述べています。
数年後には、ほとんどの人が、おそらくもっと多いと考えているでしょう。
マース社(Mars)の研究では、世界の遺伝子資源バンクやコレクションは、ほんの一握りのサンプルで占められ、発見されるには至っていない野生カカオ遺伝子型が存在しているだろうと考えられています。
マインハルト氏は、カカオ遺伝子のデータベース構築に貢献しており、すでに貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)で、初の保全すべき遺伝子型を決定しました。
現在、カカオは14種類まで発見されていますが、アマゾンの秘境でアメリカ合衆国農務省(USDA)が多様な植物発見の努力を続け、種類が増えることが期待されます。
十年前、ドイツの農民であるフォルカー·レーマン(Volker Lehmann)氏は、アマゾンのベニ川の支流、マドレ·デ·ディオス川に点在する島のいくつかで、豊かなカカオの木々を発見しました。
近年のDNA分析から、これが新しいカカオ品種であることが確認されました。 これは、ボリビア・トランキリダド(Bolivia Tranquilidad)という名前で、貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)指定の第2のカカオとなりました。
貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)の試飲パネルによれば、
「花を思わせるバニラ風味、少しスパイシーで、緑を思わせ、わずかなバルサミコ木質樹脂と熟成した果実の香り」
という味にプロファイルされています。
アメリカ合衆国農務省(USDA)が、より良いカカオの生産を奨励するため遺伝子研究を行うことは、最終的に雇用創出につなげることが目的です。 チョコレートの生産は、依然として頻繁に国産品の使用を必要とします。
米国内で生産された砂糖、ミルク、アーモンドやピーナッツから、チョコレートが作られます。
「チョコレート業界をサポートすることによって、我々はまた、米国以外の成長商品の多くをサポートしています」
と、マインハルト氏は述べています。
そして、貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)は、米国のショコラティエと原料を生産する農家の両方を支援しているように見えます。
トッド・マソニス(Todd Masonis)氏は、2010年に友人のガレージでチョコレートを作り始め、数年で、元シリコンバレーのエグゼクティブと共同設立し、 ダンデライオンチョコレート(Dandelion Chocolate)を立ち上げました。 店舗は、現在、400にまで拡大し、キャンセル待ちの状態です。 需要に追いつくよう、より大きな生産設備を構築しています。 カカオ豆のみに焦点を当てて成功し、米国チョコレート生産の新しい波で、急成長しています。
「私たちは、チョコレートを作るのに、2つだけ食材を使用しています。カカオ豆と砂糖です」
と、貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)理事会メンバーであるマソニス氏は言います。
マダガスカル産のカカオ豆を使ったものは、非常にフルーティーになります。 ベネズエラ産のカカオ豆は、力強いチョコレートになります。 いくつかは、ナッツや花の風味になり、実際に違いを味わうことができます。
一方、工業用チョコレートは、長い間、一貫性と低コストでのみが重要視されてきました。 それはそれで何の問題もありませんが、何を優先させるのかで全く異なってます。
トッド・マソニス(Todd Masonis)氏は、ベリーズからのマヤマウンテンカカオを用いたチョコレートを製造しています。 今年初めに貴重カカオとして指定された2品種のうちの一つです。
マヤマウンテンカカオ(Maya Mountain Cacao)は、5年前に設立され、地域の309のカカオ農場のネットワークで構成されています。 マヤマウンテンカカオは、地元の農家から生のカカオ豆を購入し、発酵させ、豆を乾燥し、その後、主にダンデライオンのような小さなチョコレートメーカーに販売しています。
プレミアムのカカオ豆は、現在の世界市場価格よりも約2,600ドル以上高く、1トン当たり5,600ドルで、約3,300ドルが直接、農家の収益となると、マヤマウンテンカカオの責任者、マヤ・グラニット(Maya Granit)氏は言います。
彼女は、貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)にベリーズのカカオ豆が指定されたことで、今後、ますます注目されることを期待しています。
「チョコレートの甘い歴史」の著者、ベス・キンマール(Beth Kimmerle)氏は、ダンデライオンやブルックリンに本拠地を置くマストブラザーズのような企業により、近年、グルメのための市場が存在することを証明してると言います。
「良い風味が、良いビジネスになる」
キンマール氏は、企業が喜んでリスクをとれば、消費者は、より質の高いチョコレートを購入することができるだろうと言います。
昨年、チョコレート会社「To'ak」はエクアドルの希少品種である貴重なカカオ豆からダークチョコレートを生産しました。
手作りのチョコレートは、食器に触れると風味を減少させることから、指先だけで口に運べすよう工夫され、また、手作りのスペインニレの木箱で包装されています。 260ドルする製品は、すぐに完売します。
これは、貴重カカオ保全イニシアチブ(HCP)の指定が、ワイン業界同様に、チョコレートメーカーと消費者に製品品質の新たな発見の機会を提供し、情熱的チョコレート愛好家への有用なマーケティングツールになるかもしれないという肯定的証拠です。
ワインに関する知識を得るためには、ソムリエである必要はありません。
きちんと説明すれば、ワイン同様、消費者は、価格が高い理由を理解してくれるのです。
チョコレートには、まだまだ未知の領域が広がっていますね。
まさに神秘の食材、神々の食物です!
参照
Why Does Your Chocolate Taste So Bad? - Newsweek
Fine Chocolate Industry Association
U.S. Department of Agriculture
Juan Carlos Motamayor - Scientific Research Manager
世界で最も高価なチョコレート? 50グラム約3万円の「To’ak」